
貿易をやる上でとても重要になるのがインコタームズです。たくさんの種類があって頭が混乱してしまい覚えるのが憂鬱になってしまいますが、インコタームズを勘違いしてしまうだけで料金が大幅に変わってきてしまったり、危険負担の範囲が変わってきてしまうので大変です。インコタームズは絶対に覚えましょう! たった11個です!
インコタームズとは?
貿易では異なる国の間で物(貨物)と紙(書類)の動きが別々になります。どこまでが輸出者の責任で、どこからが輸入者の責任であるか、輸送にかかる費用はどちらが負担するのかを明確にしておかないと後からトラブルになってしまいます。国が違うと法制度や商習慣が違うので認識の違いも出てきてしまいます。トラブルを防ぐために国際的に統一された貿易条件をインコタームズと呼びます。
インコタームズ(Incoterms)とは、国際商業会議所(ICC)が制定した貿易取引条件とその解釈に関する国際規則(International Commercial Termsの略)です。インコタームズが制定される1936年以前は、貿易取引条件の解釈がそれぞれの国で異なり、しばしばトラブルの原因となっていたため、これらの誤解や行きちがいを回避する目的で制定されました。
その後、商慣習の変化に伴って、数次の改訂を経て現在は2011年1月1日発効の「インコタームズ2010」が最新版となっています。前回改訂2000年版から10年ぶりの改訂となった2010規則は、輸送実務の変化、無関税の自由貿易国の拡大など時代の変化に合わせた構成や変更がなされています。
I. インコタームズの規則
インコタームズの規則は、アルファベット三文字(例えば、FOB、EXWなど)で表され、売主・買主間の物品の引き渡しに関する危険の移転の分岐点、役割や費用(運送の手配と運賃の支払い、保険の手配と保険料の支払い、通関手続きと費用)の負担区分などそれぞれの規則の下で売主・買主が行うべき義務をまとめた取引条件です。ただし、支払われるべき代金や支払い方法、物品の「所有権」の移転時点、契約違反の結果などについては定めていません。
(インコタームズ2010より引用)
上記にあるように、インコタームズの役割は、費用負担の範囲と貨物危険負担の範囲です。代金支払い方法などの他の事項は含まれませんので、契約書に記載する必要があります。
また、インコタームズ2010が最新版ですが2000年版を使っている人もいます。2010年版の使用が義務付けられていないからです。行き違いを避けるために確認することが大切です。もし旧版を使用する際は、何年版のインコタームズを使用するのかを契約書に明記すべきです。
言った言ってないのやりとりは時間と労力の無駄になってしまうのでとにかく書類に明記することをオススメします。日本人同士での感覚で取引をすると痛い目にあいます(泣)
それでは、じっくりみてイメージをつかみましょう。2010年版のインコタームズになります。
EXW(Ex Works)工場渡条件
EX:出口(Exit)、Works:工場、作業所
工場の出口から出たら費用、危険負担はすべて買主です。買主の指定する業者を使用して運送します。買主が輸送や輸出通関の手配ができるか確認しましょう。できない場合は、手配できるフォワーダーを探すか、EXWの使用を避けます。買主の費用負担が大きいのが特徴です。
FOB(Free On Board)本船渡条件
本船の甲板上で義務がなくなります。売主は本船の甲板上で義務がなくなるまでが費用負担範囲です。
例:FOB TOKYO
危険負担は東京の港で商品を本船の船上に置いたところまでです。
費用負担も同じです。この後は買主の負担範囲になります。
FCA(Free Carrier)運送人渡条件
Carrier:国際運送の運送人
売主は国際運送の輸送人に引き渡すまでが費用負担の範囲です。
例:FCA TOKYO Port CY,Japan
東京港コンテナヤード(CY)運送人渡しです。
費用負担は東京のCYのゲートまでです。指定地をよく見ましょう。
危険負担も運送人に渡した時点で移転します。
CIF(Cost,Insurance and Freight)運賃、保険料込条件
Cost:輸出国で掛かる費用
売主は、輸出国で掛かる諸費用、貨物保険、国際運賃を支払うまでが費用の負担範囲です。
例:CIF Ho Chi Minh Airport
費用負担はHo Chi Minhの空港までです。
危険負担はFOBと同様です。
CPT(Carriage Paid to)運送費込条件
Paid to:~に支払った
売主は、国際運送費を支払うまでが費用負担の範囲です。
例:CPT Shanghai CFS,Chaina(上海コンテナフレイトステーション運送費込み)
CFS:混載貨物専用倉庫
危険負担は買主が指定する運送人に引き渡したときに移転します。
費用負担は上海のCFSまでです。保険料は買主が負担します。
DAP(Delivered at Place)仕向け地持込渡条件
delivered :配達済み
place:輸入地の指定仕向け地
売主は、輸入地の仕向け値で配送済みとなるまでが費用と危険負担です。関税は買主が負担します。
例:DAT ABC Distribution Center ,Pusan,Korea
危険負担、費用負担はABC配送センターまでです。荷卸しの負担は買主です。
よく配送センターなどに使用されるインコタームズです。ターミナルから他の場所に貨物を移動させて仕分けするときに向いています。
さて、なれてきたと思うのでここからはさくっとカテゴリーに分けていきます。
コンテナ輸送向きのインコタームズ
FCA(Free Carrier) | 運送人引き渡し条件 | named place of delivery (指定引き渡し地) |
---|---|---|
CPT(Carriage Paid to) | 運送費渡条件 | named place of destination (指定仕向け地) |
CIP(Carriage and Insurance Paid to) | 運送費、保険料込条件 | named place of destination(指定仕向け地) |
輸出者の負担が大きいインコタームズ
DAT(Delivery at Terminal) | ターミナル持込渡条件 | named terminal at port or place of destination(仕向港、仕向地における指定ターミナル) |
---|---|---|
DAP(Delivery at Place) | 仕向地持込渡条件 | named place of destination(指定仕向地) |
DDP(Delivery Duty Paid) | 関税込持込渡条件 | named place of destination(指定仕向け地) |
※DAT,DAPは関税は買主負担です。DDPは売主が関税を負担します。また、以前使われていたDDUは今ではDAPになりました。
船舶運送向きのインコタームズ
FAS(Free Alongside Ship) | 船側渡条件 | port of shipment (指定船積港) |
---|---|---|
FOB(Free On Board) | 本船渡条件 | port of shipment (指定船積港) |
CFR(Cost and Freight) | 運賃込条件 | destination(指定仕向港) |
CIF(Cost,Insurance and Freight) | 運賃、保険料込条件 | destination(指定仕向港) |
※CFRはC&Fと表現される時があります。
輸入者の負担が大きいインコタームズ
EXW(Ex Works) | 工場渡条件 | named place of delivery (指定引渡し地) |
---|
インコタームズ一覧を覚える簡単な覚え方
さて11個すべてのインコタームズをチェックしました。覚えられそうでしたか?日本語で覚えようとするとややこしくなってしまって覚えにくいと私は感じました。ですので、英語で覚えるのがオススメです。ここからは、自分の経験で覚えていて損はないと思った点について紹介していきたいと思います。
- 4類型特徴:インコタームズをE,F,C,Dの四種類にわけることができます。
E類型:出荷条件売主が売主自身の施設等において、物品を買主に提供する取引条件。
F類型:主要輸送費買主負担条件売主が買主によって指定された運送人(船会社、航空会社、複合輸送人等)に物品を引き渡すことを求められ、かつ主要輸送費は買主負担となる条件。輸出通関の義務は売主。
C類型:主要輸送費込条件売主が主要輸送費を負担するが、船積みまたは運送人引き渡し後に起こった貨物の損害については買主が責任を負う条件。輸入通関の義務は買主。
D類型:到着条件売主が、貨物を目的地まで輸送するのに必要な全ての費用と危険を負担する。
(貿易実務検定C級合格ガイド第2版より引用)
- 輸入国側の通関が難しそうな場合はDDPにしてしまいます。
- 優先的に覚えた方がいいインコタームズはEXW,FOB,CIF,DAT,DDPと感じます。私の経験上ではよく使用されています。(機械メーカーの場合)
- DAPでもCIFでも船や飛行機に貨物を乗せた瞬間から、もし何か問題が起きてしまったら買主に対処してもらうしかないです。保険料は支払いますが、保険証券を送るだけで対処は買主にしてもらいます。保険をかけるときに輸出する国に保険会社の支店があるか確認しましょう。
- DAP,DDPはドアツードアのクーリエ利用に向いています。(少量のサンプルなど)
- DDPは関税の支払いも含まれます。関税がどのくらい掛かるか知らないと請求が来たときにびっくりすることになってしまいます。気をつけましょう。
- FOBの場合、フォワーダーの指定は買主者側です。買主に連絡先を聞いて輸出の手続きを勧めましょう。
- 貿易用語でよく使われるFreeですが、「免れる」、「責任や義務がない(なくなる)」というイメージを持つとぐっと覚えやすくなります。売主はXXの地点、時点で責任がなくなります。
- Freight とCarriageですが、Freightは船や航空機での運送についてです。貨物運送という意味もあります。ですので、港、空港で費用負担が移転するインコタームズに使われています。Carriage は内陸で費用負担が移転することも想定しているインコタームズです。
- 保険がいるかいらないかのわかりやすい覚え方は、「I(愛)」がないです(笑)「I」が入っていなければ、保険は売主が払う必要がないと覚えましょう。
- 保険加入についてはFOB以外は入った方がいいと思っていよう。分からなければ、そのとき調べれば大丈夫です!
参考文献:貿易実務検定C級合格ガイド第2版、インコタームズ/費用負担と危険負担の範囲をまとめてみました
実際のインコタームズを用いた体験談
私が貿易の実務を始めた頃は本当によく分からなかったので、相手の企業まで持って行ってくれるDAPが楽ちんでいいじゃん!と思っていました。しかしよく考えると、運送費は輸出者が持つので割高になってしまいますよね。
サンプルなど少量で小さなものなら費用は高くならないので良いですが、商品などになると大きさも大きくなりますし、重さもでてくるので近隣諸国のアジアでも1万円くらいになってしまうことがあります。
その反対のEXWは買主が全部負担してくれてラッキーと思いますが、工場から出荷してから全てを任せるのもなかなか信頼のある付き合いがないと難しいように感じます。
それならば、FOBにして買主に港や空港からの費用を持ってもらおう!というアイディアが浮かびます。しかし少々不安材料がでてきました。輸出国側(日本)での通関はこちらが業者を指定できますが輸入国側での通関は、買主の指定する業者にお願いすることになります。
つまり、慣れていない業者を指定される可能性があり、スムーズに行かない可能性も出てきてしまいます。通関がスムーズに行かないと、なかなか買主に渡すことができず、保税倉庫代等も支払わなければならないケースも出てきてしまいます。通関はやはり付き合いがあり、ある程度自社の製品を知ってくれている業者にお願いしたいところです。初めての業者とやるときは、自社製品をよく説明し、カタログなども事前に送付したりやりとりをしておくことをオススメします。
どれだけ費用が違うのか気になってフォワーダーに航空輸出の見積をお願いしたことがあります。FOB, CIF, DAPと言ってもそんなに金額が違わないと思ったからです。しかし、見積をみてびっくりしました(笑)FOBでは5,000円程度なのに、CIFでは40,000円、DAPでは90,000円くらいの値段です。FOBとCIFの違いは飛行機代の有無で納得がいきました。
しかし、どうして陸上輸送でこんなにも差がついてしまうのでしょう。日本での輸送は1万円以下で済むのに!?諸々他にも料金は掛かりますが、国外になってしまうと国外の業者を雇って輸送するので高くなってしまうそうです。確かにもし外国から日本の運送の手配をしようと思ったら難しいし、手間もかかります、お得意の業者の支社もないかもしれません。
ですから、外国での運送は慣れた買主側で手配してもらった方が運賃が安くなる傾向が強いと私は思いました。運送賃やその他諸々の代金はその時々貨物の種類で変わりますが、基本的な考え方は同じで良いと思います。
インコタームズは勘違いしてしまうと運送費でかなり差が出てきてしまいます。気をつけましょう!時と場合で運賃は変わってしまいますが、インコタームズを上手に使って交渉していきましょう。インコタームズで運送業者を使い分けるのも貿易実務の面白いところでもあります。貿易マスターになれるように頑張っていきましょう♥
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